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『悲願へ』 執行草舟|読書感想 小坂航

  • 執筆者の写真: kosakawataru6
    kosakawataru6
  • 4月8日
  • 読了時間: 3分



『悲願へ』 執行草舟


大実業家・松下幸之助が、なぜ「PHP理念」(Peace and Happiness through Prosperity)を唱えたのか。


「繁栄を通しての平和」とは、現代の感覚でそのまま受け取っても、その真意には届かない。


戦後、焼け野原となった日本。


食糧もなく、生きることに精一杯の時代に、「繁栄を通しての平和」という言葉を掲げた。

そんな理念を、あの状況下で掲げるなど、誰も想像できなかった。


それでも松下幸之助は、その言葉を掲げた。


それは、まさにその時代に必要とされた価値観だったのだ。


つまり、“時限立法”である。


執行草舟先生は語る。


もし松下幸之助が、物質に溢れた現代に生きていたなら、きっと「貧しさ」に向かっていたはずだと。


それは、物の豊かさの中でこそ見失われがちな、日本人本来の姿を取り戻す営みであり、先生はそれを「清貧」と表現された。


物質的な豊かさなど想像もできなかった時代に、松下幸之助はPHP理念を唱えたのだ。

では、なぜそれが可能だったのか。


それは、“宇宙的使命”に生きていたからだ。


自らの存在を、宇宙の生成発展という流れの中に位置づけ、生きていた。


この「宇宙の生成発展」という言葉は、『新しい人間観の提唱』の中に記されている。


人間もまた宇宙の一部であり、その大いなる動きとともに生き、発展する存在なのだと。


その根底には、「すべては変化し、常に成長していく」という、仏教で言うところの“諸行無常”の理解がある。


つまりPHP理念とは、時代の表面に翻弄されない、生命の根源から湧き上がる指針だったのだ。


松下幸之助は実業家として大成功を収めたが、現代の視点ではどうしても「高貴性」のみに目が向けられる。


しかし、「野蛮性」がなければ、あの理念は決して生まれなかった。


それは、国の行く末を真に憂う「憂国の思想」。

商人として人の道を説いた石田梅岩の「石門心学」。

そして死を覚悟せざるを得なかった経験。


それらすべてが、高貴性と野蛮性という両輪を、見事に平衡させていたのだ。


私は、それこそが日本人の本来の姿であり、さらには人類の初心だと思う。


その代表こそが「武士道」である。


そしてその精神の根源を、現代において体現されているのが、執行草舟先生である。


今のトレーニング業界や健康業界は、肉体第一の健康観に偏っている。


だが私は、健康とはただ肉体を守ることではなく、生命を燃焼させるために必要なものだと考えている。


現場で多くの方と向き合う中で、湧き上がってきたのは、「このままでは日本が滅びるかもしれない」という感覚だった。


特に2020年のウイルス騒動をきっかけに、その危機感は明確になった。


松下幸之助の魂と触れ、仕事とは“やりたいこと”ではなく、“時代に必要とされていること”を担うことだと実感したのである。

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